雑草わんだほー

That's so wonderful♪

もう巡り会うことはない親友との忘れたくない旅

仮面を被って、音の響かせ方を知って。
初めは、その遠い人影を砂漠の蜃気楼かと思いました。なぜなら私とまったく同じ姿をしていましたからね。
でも私が右半分の仕事を終えると、その人は左半分の仕事を終えたようで、合流して同じ方向に進みはじめました。なるほど、砂の流れに見取れて失念していましたが、これは仮想世界での旅でした。つまりその人は、創造主が使わした私の良き相棒のようです。
それにしても、よく出来ていますね。付かず離れずの距離を保ちながら、追い越し追い越され共に進んでゆきます。どうやら最近の人工知能は、人間らしい揺らぎを備えるに至ったようです。なんともなしに音を響かせると、ときどき応えてくれますしね。
そうして坂道を気持ちよく滑走して風になってみて、ふと振り返ると相棒は視界から消えていました。もしかしたら先行しすぎてしまったのかもしれません。仕方ないですね、時間を稼いで待っててあげましょう。おおっ、慣性と摩擦のバランスが良い具合で、蛇行するのも中々楽し……。あれ、前方で音が響いています。しょうないことに夢中になっているうちに抜かれてしまったようです。「ここにいるよ、早くおいで」と、そんなことを言っているような気がしました。うん、本当によく出来ています。
それからというもの私の心には、だんだんと信頼感が芽生えてきました。ぶっちゃけ相棒の後ろをついていくだけで、どんどん先の風景に進んでいけます。この世界の創造主は、ちょっと親切すぎる気がしますよ。あ、なんか恐そうなのが登場してきました。びっくりした私は後ずさりしてしまいます。でも大丈夫、どんな時だって相棒の真似をすれば……。あれ、一緒に逃げ惑って、あれあれ、なんか二人してやられてしまいました。そっか、そう簡単にはいきませんよね。タイミングを見計らって走りだし合図をすると、相棒はおろおろしながらも私の後ろをついてきてくれました。今度は大丈夫そうです、ふぅ。
それからも息を合わせて手分け作業をしたり、交互に仕掛けを解いていったりして。いつしか向かい風は強くなり、並べた肩も触れあうくらいの近さで寄り添いながら歩んでいきます。でも私は視界の端に弱々しいのを見つけたので、気付いてなさそうな相棒を置いて道を外れ、音を鳴らしてそいつを奮いたたせました。でもすぐにふらふらと弱ってしまうから、また奮いたたせます。分かっていますとも、こういう本筋とは関係ないことを達成することで、創造主から賞賛を得られるのです。でも、そんな小賢しい読みは勘違いのようでした。だったらもうこの弱々しいのに用はありません。さっさと道に戻って旅の続きを、……と思いきや、相棒はそいつの横で必死に音を響かせていました。すでに諦めてしまった私の呼びかけも無視して。ああ、もしかすると、この無口な相棒は――


それが私にとって。その人が特別になった瞬間でした。
だから、二時間にも満たなかった巡礼の旅をできるだけ覚えておきたいと、その人の名を知った最後に思ったから。旅と同じだけの時間を掛けて記憶を辿りつつ、この文章を書いています。


PS3オンライン配信 : 風ノ旅ビト (Journey)

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万人に勧められるゲームというものが、本当に存在するのならば。それは『Flowery』を措いて他にないと思っています。
とくに私は、ずっと奉じていた価値観が崩れさるような挫折にあるときにプレイしましたので、すいぶんと救われたところがありました。蔑ろにしていた心の大切なところが再生していくようで。だからthatgamecompanyの新作には期待していて、でもオンライン要素があると知ったときはちょっとがっかりしました。思いかえせば『DJMAX ONLINE』では一人部屋に引き籠もり、『デモンズソウル』で侵入メッセージがでるたびに大慌てし、友達に頼みこんで『Portal2』の協力プレイをオフライン画面分割するような私は、どうせ恩恵を受けないのだろうと。でも、それは悔しいからPSNサインアウトして遊ぼうかと、そんなふうにまで考えていたのですね。
まぁそんなことはすっかり忘れていたわけですが、それで正解でした。電子的な連絡手段が発達して、そう簡単には音信不通にならないこの時代に、これほど濃密な一期一会の体験を味わうことがあるなんて、思ってもいませんでした。この「親友」トロフィーは、ずっと大切にします。
ありがとう、さようなら。